Blog

植物の多様性、というはなし

Penseur

2018.05.07

ウエやん

記憶に残る場所

20年も広告屋兼、ライター稼業をしていると、ありがたいことに見知らぬ場所や聞いたこともなかった場所、あちこち取材に行く機会がある。
仕事はまさに一期一会の「いただきもの」である。

幾千もの知らない場所、店、人に踏み込んで話を聞く。それは自分の知っている範疇のキーワードを打ち込み、ネットで検索する以上の驚きや感動で目前に迫ってくる。


その中でも、そのときの匂いや質感までも忘れられない場所というのがいくつかあって、そのひとつが「森野旧薬園」、という国の史跡にも指定されている日本最古の民間の薬草園だ。


きらめく小さな虫の羽根、葉の上の水玉や木々から漏れる光の粒、そこらのすべてに宿る神さまたち。

さながら万華鏡のように一歩踏み出すごとに変化する景色。

山全体が薬草園になっており、その種類は250種を超え、一歩足を踏み込めばあまりの多彩な草花、その「多様性」に圧倒される。深い皺が刻まれた老大樹がふかふかの苔をまとい、多彩な薬草たちがそれぞれのシルエットで山肌から足元まで埋め尽くすように佇んでいる。

手を伸ばせば届くところに、漫画やサスペンスドラマなどに出てきそうな「トリカブト」も美しい花を咲かせ、こちらも薬草ということらしい。毒にも薬にも・・とはよくいったもので、根っこは利尿、強心、鎮痛、鎮静などに効果のある薬になるそうだ。(追記:附子(ブシ)と呼ばれるその生薬は「ブス」の語源になったという説もあるほど。やはり昔から強烈な薬だったらしい)

オーナーに道案内してもらっていたのだが、トリカブトには「触れてもダメ」と言われたからには触るだけで、あまりよろしくない「効果」があるのだろう。

大樹も多く、桜などの馴染みの木も桜もその花をただ眺めるだけでなく、樹皮は、今でも咳止めに含まれるそうで。

・・美しい桜もただ眺めて味わう酒の肴でもなく、いろんな草木もただ「生えて」いるものでなく、古の人から見れば、薬であり、慰めであり、季節を感じる時計であり、さまざまな意味合いをもつものなんだろう、というのがよく分かる。

山道に沿って薬草の名前や薬効などが書かれたプレートを読みながら、上へ上へ登って行くと、青い草花から遠く万葉の時代に推古天皇が薬狩りをした記録も残る、青々とした宇陀一帯の地が広がっているのも気持ちいい。

山全体に潜む、薬草の多さもさることながら、それらの植物が持つ薬効、そして、それらを組み合わせる漢方の概念。
古の人はどうやってそれを調べ、知ったのだろうか、と思うとその知恵の幅と量は圧倒的だ。ここでは280年前と変わらない風が吹いている。

呼吸するたび胸の奥まで元気をくれそうな香りを放つ、いきいきとした多彩な薬草たちは、今も生き続ける古からの贈りものでもある。
そしてそれを維持するのも人の手であり、知恵である。薬草は生きたものなので、貴重なものほど栽培が難しいらしい。

しかも半分野生でもあり人の手が管理しないとすぐに外来種の野草に埋め尽くされてしまう。いわゆるセイタカアワダチソウや西洋タンポポといった「べらぼうに強い」やつらが、一色刷りの世界にして、埋め尽くしてしまうわけだ。


なので、皮肉にも野草と呼ばれ、その姿はいかにも自然に見えても、自然そのもの、ではなく、人の手があってようやく維持されている「多様性」。

そしてその多様性こそが、豊かな世界なのだと気付くことのできる数少ない場所になっている。




・・・さて、パンスールが10周年を迎えるにあたり、サボテンを掲げている。


このサボテンのご先祖さまも、「モクキリン」というおおよそ、サボテンらしからぬ風貌をしている。
うねうねとした幹に、帽子みたいな葉がのっかり、おおよそ「木」にみえるが、れっきとしたサボテンのご先祖様だ。
そしてこれを基に、多くの種子が海を越え、山を越え、変化し、多肉植物が何万種と生まれることになる。


種子が旅をする。
風にのり、蟻の背中にのり、
鳥の背にのって羽ばたいてゆく。


そして、柔軟に旅先でカタチを変え、多様性が生まれる。
カラカラの砂漠で何千年も生きるものから、トゲトゲからモフモフ系、
ぴかぴかレンズのようなものから、家になるような大木まで多様なカタチをした多肉植物。


一方、バナナのような親と子が根で繋がったまま増える「単一遺伝子」は病気に弱いという。
かわいい子には自分とはまったく異なる生き物として、遠くへ旅をさせたほうがいいのは間違いない。


多様性を維持するのは、ご時世もあって薬草園でもどこでも面倒だ。
多様性には見知らぬ土地へ乗り込む勇気も必要だ。

同じ考え、同じ境遇のものが集まったほうがはるかに楽にコトが進む。ただ、それではおもしろみがないばかりか、実際は「弱く」なる。
多様性こそが未来や将来的な強さ、であり、「正しいか」「正しくないか」。
毒になるか、薬になるか。損か、得か。
・・そんな思惑や概念を超えた豊かさがある。


1年間に何万種も生物が絶滅し、多様性を失いつつある世界で、
もの言わぬ植物たちが、いろいろと大切なことに気づかせてくれる存在であることは間違いない。

トリカブトの花