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長岳寺に行って地獄の絵について聞いた話

Penseur

2017.11.29

ぴょんす

現代社会は疲れるさかい、どっかで一息入れなきゃヤバい。




そんなことをEVISBEATSが歌ってた。



現代社会を生きる僕たちは、仕事をしたり、友達と遊んだり、デートをしたり、どうぶつの森(アプリ版)をやったりして忙しく過ごし、気がいたら月日は流れている(そうして僕はブログの当番を忘れていた)。




「仕事効率化が劇的にアップする5つの方法」

「おもしろい人はやっている、会話を盛り上げる7つのポイント」

「なんでなの?「彼氏がほしいときほど彼氏ができない」原因」

「【ポケ森】オブジェレベルの上げ方・方法」




現代社会を生きる僕たちは、例えばグーグル検索によって得られたこれらのソリューションを活用し、より効率的に、稼ぎ、たくさんの仲間に囲まれ、素敵な異性と幸せな時間を過ごし、いち早くムーブメントを追いかけることを求められる。




「バカめ!勝てばいいんだ なに使おうが勝ち残りゃあ!!」

「悪いなのび太、四畳半島の別荘には3人しか連れていけないんだ(笑)」

「ごめんねルパン。でも、騙される方がわるいのよ。」




子供向けのアニメや漫画ですら、厳しい現実を突きつけるセリフが飛び交う。

僕たちが座れる椅子の数には限りがある。イケてないやつは仲間外れにされる。泥棒ですら騙される。




ささくれ立った心を癒そうとダウンロードしたアプリをプレイしてみたはいいけれど、攻略サイトのコメント欄は効率厨たちの煽り文句で溢れかえり、おまけに、気にくわない表情をしたブサイクなカエルのキャラに果物一つ分け与えようとしない自分の本性にゾッとすることになった。




常に油断せず、ギラギラとした気持ちで過ごし、他人に勝ち続けなければいけない。

どうぶつの森は安住の地ではない。現代社会を生きる僕たちの心に平穏はない。

現代社会とは地獄の様なものだ。




上方落語風説法の聞けるお寺長岳寺の話



と思ったわけではないんですが、先日、奈良にある長岳寺というお寺に大地獄絵図を観に行ってきました(前置きが長い)。




この長岳寺では、毎年、(おそらく境内の紅葉が見頃を迎える時期に合わせ)10月〜11月に秘蔵の大地獄絵図(掛け軸9幅で構成され、総法量は縦3.5メートル 横11メートル)が開帳されます。

その公開期間中、住職による絵解き(絵の解説&説法)が行われ、僕もその絵解きを目的に行ってきたのですが、その住職さんが驚くほど話上手でした。




参拝客はご高齢の方が大方を占めるのですが、

「あなたがたも10年とは言いませんが、20年かそこらの内にこの絵の世界に行くわけですから。」

と綾小路きみまろの様な毒舌で参拝客をいじったり(よくウケてました)、解説の一つ一つにもシニカルなユーモア(とたまに下世話な話)を挟んでくるので、上方落語の寄席を観に来ているかの様でした。




あとは、地獄絵図は識字率の低かった時代に、ビジュアルによる倫理教育を行う目的で描かれたという点についても話されていました。寺子屋とか、庶民のための教育制度が発達する以前は、お寺が庶民への倫理教育の役割を担っていたんでしょうね。




尽きることのない欲望にとらわれる餓鬼道で、他人への猜疑心にとらわれ続ける畜生道。苛烈な競争社会は修羅道、世界の各地で起こる戦争は地獄道そのもの。

ご住職は、この世は地獄であり、地獄絵図は現代社会を告発する図であるとおっしゃっていました。




社会の矛盾、差別、貧困といったこの世の現実を、前世の因縁であるという、運命決定論的な結論に帰着させてはならない。

仏や餓鬼、畜生、鬼、全てを内包した僕たちの心の中について、地獄絵は問いかけているのだというのが説法の趣旨でした。








仏教のヤバいところの話




「これあればかれあり、これ生ずればかれ生ず、これなければかれなし、これ滅すればかれ滅す。」
これは仏教の経典によく出てくる有名なフレーズで、




1、Aという条件があればBが生じる。

2、1の場合、Aが無くなれば、Bもなくなる。



という、つまり因果関係について説明した言葉です。



ゴータマ・ブッダは今から2000年以上前の科学が生まれる前の時代に、この因果関係に基づく一つのソリューションを発明しました。



それが仏教です。




解決すべき問題は、「人の世の苦しみ」。問題の原因は「渇愛(尽きることのない欲望)」。問題の解決策は「何も感じなくなれば良い(悟り)」




「苦」の定義とか、「輪廻転生の世界観」とかについて最低限理解しないと見えてこない部分もあるんですが、科学的な概念が生まれるずっと以前に、因果関係について指摘していることからもわかる様に、
仏教はものすごく論理的で、にもかかわらず世界観とか発想がぶっ飛んでいるところが面白いんですよね。




僕は、こういう発想ってビジネスやクリエイティブにも通じるところがあると思ってて、日常生活でオーバーヒートしてしまったテンションをチルアウトさせるついでに、ぶっ飛んだ創作物に触れる感覚でお寺を廻る様になりました。(だから僕は別に突然宗教に染まったヤバいやつではない。)





ちなみに、地獄絵図に描かれた無間地獄に落とされた場合、無限地獄に到達するまでに2000年間奈落を落ち続け、349京2413兆4400億年間、その他の地獄が夢の様な幸福に感じるほどの責め苦に合うことになるそうです。


もう地獄の責め苦が中学生が考えたんかってぐらいインフレを起こしてて面白いですね。





お寺の経営がヤバい話



話を長岳寺の説法に戻します。




最後にこのお寺の地獄絵図が一度盗難にあった、という出来事の顛末について住職が話されます。
盗難防止の設備や対策を行っていなかったが為に、掛け軸の一幅が盗まれ、それが帰ってくるまでに大変な労力を払ったこと、何百年前から受け継がれてきた文化財(と信仰心)についての責任がご自身にあること、文化財の保護には多額の費用がかかること、長岳寺には檀家が10数件しかいないこと、間も無く本堂(確か)改修が必要なこと、を慣れた口調で話し出し、大地獄絵図について住職自身が文を書いた冊子、もしくは、原価100円ほど(多分)の数珠(ご住職自身が言いました)をオマケに、一口千円の寄付を募られます。



その語り口が巧妙、というか非常に面白くて、たくさんの人が寄付をされていました(僕もしました)。



お寺の経営難へのソリューションとして、説法が成立するぐらい、ご住職の話術が巧みということですね。



皆もお寺に行こうよって話



寄付金と入山料を合わせても1,350円、映画代より安いですし、大地獄絵図の公開は11月いっぱいまで行ってます。



休日の過ごし方として、とてもいいと(個人的には)思うので、興味のある人はぜひ。

説法は土、日、祝は13時からです。一応電話で問い合わせてから向かった方がいいかもです。

あと最近NHKで特番か何かが放送されたらしく、駐車場がすごく混んでました。

近くのコンビニ裏に有料駐車場があったのでそちらを利用した方がいいです。




境内には重要文化財に指定されている古い舎利(台所)があり、そちらでお茶や軽食(にゅう麺)を採って休憩ができます。

僕も帰る前に寄って休憩していたら、説法を終えたご住職がやってきました。

ご住職が、何か飲みますかと聞いたお寺の従業員の方に言いました。

「コーヒーをください。砂糖は二つ入れてください。」

辛辣な言葉で世の中について説いた住職は、意外なことに甘党なのでした(終わり)。